ブレジネフの亡霊
1968年8月、当時のチェコスロバキアを、ソ連を中心とするワルシャワ条約機構五カ国軍が侵攻した。
「プラハの春」と呼ばれた民主化運動をたたきつぶすことが目的だった。ソ連は「社会主義共同体の利益が脅かれる場合、個別国家の主権は制限されることがある」という制限主権論を唱えて侵略を正当化した。
この屁理屈は、当時のソ連共産党書記長の名前をとってブレジネフ・ドクトリンと呼ばれた。
「プラハの春」から21年後の89年にチェコスロバキアは社会主義体制から離脱し、91年にはソ連が崩壊した。68年に社会主義の道義が失墜したこともソ連・東欧体制崩壊の遠因になった。
現在、ウクライナ情勢が緊迫している。ロシアは、「自国民保護」を口実にウクライナ南部のクリミア自治共和国に軍隊を展開している。「ロシア国家の利益が脅かされる場合、近隣諸国の主権は制限されることがある」という21世紀の制限主権論をプーチン政権は振りかざしている。
今月31日にクリミア自治共和国で行なわれる「独立」に関する住民投票では「独立」が是認されるであろう。
しかし国際法的根拠に基づかず、外国軍隊が展開している状況で行なわれた住民投票の結果が国際的に受け入れられることはない。
ブレジネフの亡霊を呼び出した代償はロシアにとって高くつく。
東京新聞本音のコラムから
(作家 元外務省主任分析官 佐藤優)
「プラハの春」と呼ばれた民主化運動をたたきつぶすことが目的だった。ソ連は「社会主義共同体の利益が脅かれる場合、個別国家の主権は制限されることがある」という制限主権論を唱えて侵略を正当化した。
この屁理屈は、当時のソ連共産党書記長の名前をとってブレジネフ・ドクトリンと呼ばれた。
「プラハの春」から21年後の89年にチェコスロバキアは社会主義体制から離脱し、91年にはソ連が崩壊した。68年に社会主義の道義が失墜したこともソ連・東欧体制崩壊の遠因になった。
現在、ウクライナ情勢が緊迫している。ロシアは、「自国民保護」を口実にウクライナ南部のクリミア自治共和国に軍隊を展開している。「ロシア国家の利益が脅かされる場合、近隣諸国の主権は制限されることがある」という21世紀の制限主権論をプーチン政権は振りかざしている。
今月31日にクリミア自治共和国で行なわれる「独立」に関する住民投票では「独立」が是認されるであろう。
しかし国際法的根拠に基づかず、外国軍隊が展開している状況で行なわれた住民投票の結果が国際的に受け入れられることはない。
ブレジネフの亡霊を呼び出した代償はロシアにとって高くつく。
東京新聞本音のコラムから
(作家 元外務省主任分析官 佐藤優)